令和5年度運動方針(抜粋)
はじめに
昨年は、大正11年3月に創立され激しい糾弾闘争を繰り返し「部落」は怖いという思いを社会にまき散らして、第二次世界大戦下に消滅した全国水平社の流れを汲む「部落解放同盟」が、創立100年のこの機会を最大限に活用しての条例化に拍車を掛けたことで、相当数の地方公共団体からの問い合わせや相談が相次いだ。
その大半は、自由同和会はなぜ条例化に反対するのかというもので、返答としては「同和問題(部落問題)は、解決の最大の壁であった結婚差別も長きに渡っての人権教育・啓発により理解が進み大きく前進していて、既に最終段階を迎えているのが現状であると判断している。時計の針を戻すような部落問題に特化した内容や地区を再指定する必要がある部落の実態調査を含むものについて反対しているもので、あらゆる人権問題の解決のための条例には反対はしていない」と述べると、人権であれば許容されることを知り安心するようだが、続けて、5年以内の結婚差別や就職差別の有無を尋ねれば言葉に詰まる。
何のため、誰のための条例化なのか、大いに疑問を残すところである。
部落解放同盟の条例化の柱は、平成28年12月に成立した「部落差別解消法」に私どもの反対から、
「部落」の実態調査ではなく、「部落差別」の実態調査になったことで、条例化する中に「部落」の実態調査を組み入れることだと判断し、平成30年5月に開催した第33回全国大会で、条例化には反対の決議をした。
その理由として、(1)旧同和関係者だけを優遇すれば、市民感情を悪化させ、解決の過程にある同和問題の早期解決を妨げること。(2)部落の実態調査は、旧同和地区を再指定することになり、部落の固定化につながること。(3)混住が進んでいる中、実態調査のために旧同和関係者を選別することは、地域の中で平穏に暮らしている人たちに分断を持ち込むことになり、さらに、アウティングになることである。
また、「部落差別解消法」の附帯決議にも、「部落差別の実態に係る調査を実施するに当たっては、当該調査により新たな差別を生むことがないように留意しつつ、それが真に部落差別の解消に資するものとなるよう、その内容、手法等について慎重に検討すること」としていることを再確認し、今後も条例化については反対していく。
このところ部落解放同盟は、「差別禁止法」の制定を目論んでいる。差別や人権侵害をした人に反省を促すことも大事だが、もっと大事なことは糾弾することではなく、被害者の救済であり、そのための「人権擁護法案」の成立である。
「自由同和会」、「部落解放同盟」、(公社)「全国人権教育研究協議会」、「全国隣保館連絡協議会」の4団体で結成した「人権会議(平成3年2月に結成した「同和問題の現状を考える連絡会議」を改名)」は「人権擁護法案」の内容に齟齬をきたし休眠状態になっているが、簡易・迅速・柔軟に人権救済ができる国家行政組織法の第3条機関としての「人権委員会」を中心とする、「人権擁護法案」を国民から理解される法案に見直し、成立のために、再度、「人権会議」として活動することを視野に入れた活動を行う。
さいごに
最近は、人権問題の解決に最も大事なコミュニケーションを阻害し、アメリカ社会のような分断や対立を生む、過度なポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ、略して「ポリコレ」)やマイクロアグレッション(あからさまではなく無自覚な差別)を運動の中核に取り入れていく動きがあるが、行き過ぎた「ポリコレ」やマイクロアグレッションは、寛容で多様な考えや価値観を否定する窮屈な社会となり、人権問題への理解よりも関与を避ける逆の効果でしかない。
国の内外で企業活動での人権の尊重の高まりを受け、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けた取組の一つと位置付けた国内行動計画(令和2年〜令和7年)「ビジネスと人権」が策定されているので、会員企業や取引先(サプライチェーン)も含めた企業に徹底した人権の尊重を指導していく。
特に「人権デュー・ディリジェンス」(人権侵害に関わるリスクを評価し、コントロールすること)の観点からも理解が必要な、LGB-T(性的マイノリティ)の問題については、万人に公平・平等で接しなければならない公務員が、オフレコで自分の嫌悪感を述べたことで、大きな問題に発展し、職を追われたが、好き嫌いまで言えない社会は暗黒である。
先ごろ、SDGsの観点から食糧危機に備えるとして昆虫食、中でも食用コオロギが話題になったが、気持ち悪く生理的に受け付けず食することができないとする声に、コオロギを差別するなとの声が出始めた。
嫌なものは嫌で、何でもかんでも差別と言えば相手が屈服すると思っている愚か者が多いのも困ったものだが、このような風潮を作ってしまったのは、私どもの運動にその要因の一端があることは
率直に認めなければならない。大いに反省すべきである。
「L G B T 関連法」が成立すれば、身体は男で心は女のトランス女性が女湯に入ってくるとネットを騒がしているが、確かに、おちんちんブラブラで女湯や更衣室への入場、或いは、女子トイレなどの女性スペースの使用について、女性が恐怖感を抱くのは自然なことで、女児や女性の安心で安全な暮らしを守らなければならないことは当然であり、女性の人権を蔑ろにするようなことは止めなければならない。
このような手術をせずに戸籍上の性別と違う性別での性自認(自称)は断じて受け入れられず、温泉文化日本を尊重すべきである。
私どもがLGBーTと表記しているように、LGBとTに分けて問題を整理すれば理解し易くなる。LGB(レズ、ゲイ、バイセクシャル)の問題としては、同性での結婚であるし、T(トランスジェンダー)の問題としては、手術を行わずに戸籍上の性別を変更することであろう。
LGBの人達がTを加えることで問題を複雑にし、あえて分かりづらくさせて社会を混乱させることで、市民権を得ようとしている意図が透けて見えるが、現状ではまさしくその思惑通りに世界は動いている。
同性での婚姻については、自衛隊については9条の解釈憲法だと批判しているにもかかわらず、婚姻に関しては憲法24条には「両性の合意」と記載してあるものを、同性の婚姻を拒否、妨げるものではないと解釈憲法に持ち込もうとしている。
まさにご都合主義、ダブルスタンダードの典型であり、裏口ではなく正面から堂々と憲法改正に臨むべきで、安易に姑息な手段での解釈憲法でお茶を濁すべきではない。
いずれにしても、混乱に歯止めをかけるためにも、LGBT理解増進会が提唱するカミングアウトをしなくても当事者が何の障壁もなく社会生活が営める社会の実現を図るべく、自由民主党が作成した「LGBT理解増進法案」の一日も早い成立を期して、ガイドラインを早急に作成する事を強く求めていく。
日本は昔から同性愛者には寛容な民族であるが、世界では、同性愛者を犯罪とみなす法律がある国が存在する。虹色ダイバーシティの調査によれば、令和4年7月現在で、死刑が12ヵ国、禁固刑10年〜終身が27ヵ国、禁固刑10年未満または刑罰不確定が31ヵ国、法による制限が18ヵ国の合計88ヵ国になる。
人権上の関係で犯罪とする国が少なくなったと言っても88ヵ国も存在するのは、宗教上のことが要因であろうが、安心で住み易い社会をつくるため、「LGBT理解増進法案」の早期成立に全面的に協力するとともに、積極的に教育・啓発を進めて行く。
併せて、人権侵害の被害者を簡易・迅速・柔軟に救済を図る目的の「人権委員会」の設置を中心にする新たな内容の「人権擁護法案」が成立できるよう自由同和会の総力を挙げて取り組むものとする。